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全体の活動報告

科学研究費助成事業 「新たなガバナンス論構築のためのアジア研究とアジア型国際関係論による共同研究」 基盤研究(A)(アフラシア多文化社会研究センター共催)第4回研究会を開催しました。

全体の活動報告
2016/06/06
  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(A)15H0185 研究代表者:清水耕介

「新たなガバナンス論構築のためのアジア研究とアジア型国際関係論による共同研究」

  • 共催:龍谷大学アフラシア多文化社会研究センター(Phase3)

 

 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 

「新たなガバナンス論構築のためのアジア研究とアジア型国際関係論による共同研究」

(アフラシア多文化社会研究センター共催) 

第4回研究会

 

日時: 2016年5月28日(土) 13:00~17:00
会場: 龍谷大学 深草学舎 紫英館 東 第2会議室
 
=========プログラム==========
 
13:00~13:45 猪口孝氏(新潟県立大学学長)によるご講演
        「Multiple Modes of Well-being in Asia」
 
13:45~14:00 休憩
 
14:00~14:45 意見交換
 
14:45~15:00 休憩
 
15:00~16:30 科研メンバーによる研究の進捗状況と意見交換
 
16:30~     今後のスケジュール調整など
 
==========================

 

5月28日(土)、龍谷大学深草学舎紫英館において、科学研究費助成事業「新たなガバナンス論構築のためのアジア研究とアジア型国際関係論による共同研究」(基盤研究(A)、15H01855、研究代表者:清水耕介)の第4回研究会が開催された(アフラシア多文化社会研究センター共済)。科学研究費と龍谷大学アフラシア多文化社会研究センターのプロジェクトは、政治経済・言語政策・市民社会の3つの領域を横断しながら、市民社会の力学に依拠したうえで構築される複合的なガバナンスの可能性を追求していくことを目的としている。今回の研究会は、第2回の科研研究会が焦点化した「ガバナンス」に続き、アジア地域の市民社会を理解することを主題として開かれた。今回の研究会では、新潟県立大学の学長である猪口孝氏にその主題に関わるアジアにおける幸福観をテーマとしてご講演頂いた。

 

猪口氏は、アジア地域における社会的な横のつながりの形態と政治的な行動様式との相関、およびその相関項とアジア社会に生きる人々の多様な価値観との関係性について研究報告した。

 

西洋の歴史哲学に影響を受けたアジア観は、文明化し、個人化を推進するダイナミズムを備えた社会としての西洋と、専制的で、したがって、個人の権利が剥奪された停滞的な社会としての東洋という二項対立的な図式の延長線上で理解されてきたと言える。例えば、西欧社会は、個人主義的な価値観に基づき、アジアの諸社会は集団主義的な価値観に基づいて社会を形成する、などという図式である。こうした図式においては、アジア地域内部の人々が多様な価値観に従って生きていること、また、多様性を内包するアジア地域のダイナミズムが見えてこない。

 

猪口氏の報告でのポイントは、そうしたアジア社会内部の多様性とダイナミズムを理解するために、意識調査のような統計に基づいた各社会の特質の指標化と分類に意義があるというものであった。

 

無論、「東洋的専制」というナイーヴな視点は、アイゼンシュタット(S.M.Eisenstadの「複数の近代化」論のように諸文明の歴史的な発展を多元性の観点から理解する視点が主流となって以降、その妥当性を持たなくなっていると言ってよい。「複数の近代化」の視点に基づけば、複数の社会は、単一の近代化の路線を辿るわけではなく、独自の経路依存性を経るなかで社会変容を経験すると考えられる。

 

しかし、いかに経路依存的な社会変容の経験を捉え、その社会のダイナミズムを理解することができるのかという問いに対して具体的に答えるために、私たちはもう一歩踏み出す必要がある。

 

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このような問題点に対して、猪口氏は、ロナルド・イングルハート(Ronald Inglehart)の『近代化とポスト近代化』における議論に依拠しながら、アジア社会内部に広がる多様な社会変容の経験を測定しようと試みている。イングルハートの議論は、西欧先進諸国の社会変容を研究対象としながら、近代化の過程でそれらの社会内部の価値観が物質主義的になり、その後に脱物質主義的な価値観が広がるようになるということを統計的に跡づけるものであった。

 

猪口氏は、イングルハートの議論の基本線に依拠しながら、アジア内部の社会変容を通じて、各社会内部の人々の価値意識がどのように変化をしているかという点を軸にして、アジア内部の多元的な市民社会のあり方を理解することができると指摘している。

 

イングルハートの議論と猪口氏の議論の違いは、猪口氏の考察対象がアジア内部の諸社会である点に加えて、①物質主義、②脱物質主義のほかに、③公的セクターが関係する価値観のカテゴリーがアジア社会内部の複数の近代化の帰結として形成されていることを明らかにしている点である。猪口氏は、2003年と2008年に行われたAsiaBarometer Surveyによるアジア各国内部の人々を対象とした意識調査の統計に基づいて、以上3つのカテゴリーを析出した。

 

その調査は、社会生活内部に存在する様々な活動や関係性に関わる16の項目(結婚、友情、家族生活、隣人との関係、健康、精神生活、住宅、余暇、生活水準、教育、仕事、治安、環境条件、世帯収入、民主的制度、社会福祉制度)のなかで、どれを優先するかによって、特定の社会内部においてどのような形態の価値観が共有されているかを測定している。上に示した16の項目は、物質重視的・精神重視的(脱物質重視的)・公的セクター重視的な性格に応じて分類可能である。

 

ある社会において共有されている生活の質に関する以上の価値観に応じて、その社会の共通意識が物質重視的・精神重視的(脱物質重視的)・公的セクター重視的なのかが決定される。猪口氏の研究報告では、各社会の社会変容が考察対象とされているため、これら3つの性質のうち2つの時系列的な組み合わせによる分類表が採用されている。具体的には、①物質重視から脱物質重視へ、②物質重視から公的セクター重視へ、③脱物質重視から物質重視へ、④脱物質重視から公的セクター重視へ、公的セクター重視から物質重視へ、の5つの類型に応じて各国社会を分類することが可能である(公的セクター重視から脱物質重視へという類型は経験的データとして確認されていないため、排除可能である)。

 

また、以上の指標に加え、猪口氏は、各社会の公的セクター(政府)に対する信頼度を測る指標として、公的セクターに対してある問題に関する嘆願をしたときに、その組織の人間から「辛抱強く待て」と言われたらどうするか、という質問に対する回答に基づく統計を使用している。その統計資料によれば、回答は、1.人脈を使う(コネ)、2.何もできない、3.待っていれば何とかなる(wait and hope)、4.手紙を書く、5.(公的な)許可なしに行動する、6.賄賂を渡す、7. 分からない、などに分かれる。

 

猪口氏は、主に以上の2つの指標に依拠しながら、アジアの各社会の特性を可視化しようとしている。例えば、一つ目の指標で①に類型可能なのは、日本、インドネシア、アフガニスタン、タジキスタンなどである。これらの国に共通する特徴は、歴史的に封建制を経験したことの影響から、社会が非常に脱中心的ないし分散的であり、縦向きの国家統合が弱く、横向きの結びつきの意識が強いという点である。公的セクターへの信頼度は高いとは言えず、2つ目の調査に対する回答として多かったのは、むしろ、人脈を使う(アフガニスタン)、何もできない(日本)、待っていれば何とかなる(インドネシア)、賄賂を渡す(タジキスタン)などの横の結びつきを重視することや、諦観や、その裏返しとしての楽観主義、そして正規の請願ルートとは異なる裏口のルートを使用して公的セクターを利用しようとするものなのである。

 

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猪口氏の報告をめぐっては、質疑応答において、こうしたアジア社会の多様な展開を示す統計が「下から」のガバナンス論といかなる関係があるのかが中心的な論点となった。

 

「下から」のガバナンス論において重要な論点の一つは、「市民」とは誰なのかという社会的アクターの属性に関わるものである。

 

「下から」のガバナンスは、市民の自律的な意思決定が統治体制の展開の中心的な駆動力となることを意味している。このとき、猪口氏の提示する研究は、統治の実践が依拠するべき市民社会に広がる人々の欲望、願望、価値を可視化していると言える。

DSC_0036.JPGのサムネール画像

しかし、このとき社会的領域においてどのような属性の人々が、物質主義・脱物質主義・公的アクター重視の価値観を示しやすいのかというような、社会的な位置づけ(ジェンダー、社会階層、階級、エスニシティ)に基づいた分析も可能ではないか。こうした疑問が提起された。猪口氏の研究報告は、そうした社会的区分に対する繊細な視点をも可視化したうえで統治体制を検討する可能性を示唆しており、非西欧社会における「下から」のガバナンス論の展開を考えるための明快な参照項を提示するものであった。

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